「ねこも口内炎」


寒い。12月だ。てゆうか、もう中盤だし。 
年末というのは何か人々のテンションが違って見える。 
気のせいだろかね。僕もそう見られてるのかしらん。 



池袋で二日連続でライブがあった。 
それぞれ西口側と東口側で。 


東口側でのライブの日、僕は終わって早々に帰宅しなくてはいけない 
用事があって他の出演者がまだ演奏してるのにも関わらず早歩きで 
家路を急いでいた。池袋の駅まで向かう裏道をiPodで音楽を聴きながら 
ギターを背負いエフェクターケースをゴロゴロと転がしていそいそと 
歩いていて、ふと顔を上げると斜め前方から白いだぶだぶのズボンを 
履いた坊主頭のおっさん(もしかして同年輩くらい?)がこっちに向かって 
すごい形相で歩いてくるのが見えた。 


「ん!?」と思ってそのまま歩いていくと彼は何か怒鳴り散らしながら 
僕のエフェクターケースを凄い勢いで蹴りまくり始めた。 
まあ本当は僕を蹴ろうとしてたんだろうけど、僕がとっさにエフェクター 
ケースを自分の身代わりに差し出したので彼はひたすらそれを蹴りまくる 
ことになったわけだが。 


彼は蹴りながら僕の顔の至近距離で何か怒鳴り散らしているのだけど 
なにしろiPodで大音量で音楽を聴いていたので彼の声がほとんど聴こえない。 
それにあまりにも突然のことで僕の頭もうまく回ってない。 

ちょっとちょっと・・・と思いながらぼんやりとその人を見つめてしまった。 
僕は口をぱっくりあけてその人の形相を見てた。 
でも足元をがんがんと蹴られているので意識は危険信号を発してはいた。 



でもね、ああいうときってすごく困るんです。 
蹴られてるエフェクターケースが気になりつつも、背負ってるギターを 
蹴られるわけにはいかないし、それ以前に「まあまずは話をきこうじゃないか」 
と尋ねるにもiPodをはずす余裕がない。それが突然の道ばたで見知らぬ人に 
ギタリストが蹴りまくられるというシチュエーションなわけです。 



しばらく蹴られてるうちに少しずつ意識がしっかりしてきてちょっとずつ 
腹も立ってきたのだけど、何しろ僕が喧嘩して勝てるわけもないから 
真っ向から相手するつもりは最初からなくて、ただ逃げるにしたって機材を 
抱えたギタリストというのは道行くおばあちゃんくらいのスピードでしか 
移動できないわけで。 



これで本格的に殴られたりする状況になったら少しは身を守る為に 
行動にうつさないといけないのに「ちょっと待ってくださいね」と言って 
ギターをそのへんに立てかける訳にもいかない。その間もずっとiPodは 
大音量で自分が今関わってる録りかけのレコーディングされた曲が流れて 
自分のソロが始まったりなんかしてる。このときほど自分のソロに腹が 
立ったことは過去にないなと思った。「あーうるさい、このギター。」 



というわけで気の毒にも何度となく蹴り続けられてる僕のエフェクター 
ケースはそのあいだじっと無言で耐えてくれて僕自身はこのシチュエーション 
をどうしたものかと途方にくれていた。 



そしたら若者の団体が通りかかって仲裁に入ってくれた。 
仲裁というか、僕が(僕のケースが)一方的にやられてたわけだけども。 


僕と彼を遠ざけてくれて、その男が怒ってさらに僕の方に向かってこようと 
するのを3人くらいで間に入って食い止めてくれた。みんな酔ってたけど。 



それでちょっと距離が出来たところでやっと一息ついて「かなんなー」と 
思いながらずれたケースをキャリーカートに縛りなおそうとしたら 
カートがバラバラと崩れ落ちた。まあ仕方ない、日頃から酷使していたし 
あんなに蹴られてはこんな安物のカートは耐えられないだろう。 



すっかり道草をくった。急いでたのに遅くなった。 
ギターソロもすっかり終わってる。 



幸いにもケースは頑丈で機材に損傷はみられなかった。それに僕自身も 
全くの無傷だった。不思議とその男に対してもそれほど腹が立たなかった。 
むかしLAで黒人のホームレスに襲われたときは殺されなくて済んだけど 
帰り道、ハラワタが煮えくり返って、でもその反面ひざがガクガクして 
まともに歩けなくてひどく惨めな思いをしたものだけど、今回に関しては 
そういう感情も身体の反応も僕の身には起こらなかった。 


ただ、この出来事は何を意味してるんだろう?と思った。 



意味なんてないのかもしれない。意味という言葉を使わないとすれば 
これは何のサインかしらん?と思ったわけだ。でもそんなこと僕に 
わかるわけない。そういうふうに考えるのが好きなだけだ。 




しばらくこういったことは僕の身には起こらなかった。昔はよくあった。 
でもいつからかそれは僕が自然に避けられる種類の領域に移行していった。 



気がつかないうちに随分と気を抜いて生きてたのかもしれない。 
長いこと東京にいてだらだらし過ぎたのかもな。 




この出来事の教訓はなんだろう? 

1「エフェクターは少ないほど良い」 

2「ちゃんと前を見て歩いて遠目から危険を察知するべきだ」 

3「自分の録音なんて聴きながら裏道を歩くものじゃない」 

4「蹴ってくる人の話をちゃんと聞こう」 

5「白いだぶだぶのズボンに坊主頭の人は全て危険人物だ」 

6「急がばまわれ」 

7「ねこも口内炎」 



いや、「ねこも口内炎」なんてことわざは存在しないです。 
でもなんとなく想像したらかわいいなと思って。口のなかが痛くて 
ちょっと顔をしかめてるのだけど「痛い」と喋れないことが。 




なにはともあれ僕を守ってくれたエフェクター達と通りがかりの若者の 
団体に感謝。Thanks. 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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コメント: 5
  • #1

    steebeck (水曜日, 14 12月 2011 13:34)

    とりあえず無事で良かったね~。最近物騒で危ないやつ(ナイフ男とか包丁おじさんとか)が多いからさ。読んでいて僕も昔の事をいろいろ思い出したけど。(^_^)

  • #2

    kei takasugi(タカスギケイ) (水曜日, 14 12月 2011)

    コメントありがとうございます☆ そうですね。いろんな人がいろんな気分で生きてるから。ちょうど今、ガジャミホさんとのデュオを聴いてたとこでしたよ。何かハギワラさんのガットって意外と今までほとんど聴いた事なくて新鮮な印象。曲も♪ その編成のままリッキーリーにMy oneを歌わせてみたいです。カモメと漂う波の音との混ざり方も好きでしたよ。

  • #3

    steelbeck (水曜日, 14 12月 2011 21:44)

    ああ、ありがとう。(^_^) ガットの音は好きなんだけど実は人前で弾いたことはほとんど無いのかも。上手い人って沢山いるし、自分らしくって考えたら何を弾いたらいいか見つけられなくてさ。(苦笑)まだこれからって感じ。あんまり時間は無さそうだけど。

  • #4

    kei takasugi(タカスギケイ) (木曜日, 15 12月 2011 08:47)

    たぶんそのままでいいんですよ。そのままで「らしい」んだと思う。ギタシンで弾くソロはそのツールがあったから出て来たフレーズだけど、それだって「らしい」ですもん。確かに個性を出すならエレキの方がある意味簡単ですよね。けどいつもエレキでやってる人がたまにアコースティックやるのが渋くて良いバランスだなと最近思いますよー。(でも不思議とガットやアコギばかりをメインに弾いてる人がたまにエレキを弾いてもそれほど魅力を感じない)

  • #5

    Gervais (月曜日, 23 7月 2012 05:02)

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